異端児と呼ばれて
先輩が一人辞める。
女性だけどさっぱりした性格で、なんでも話せる先輩だった。僕が会社の中でおかしいと思ってることや、人間関係のあれこれとか、よく聞いてくれたし、自分の意見もしっかり持っている人だった。
たぶん、普通に考えたらちょっと「変な人」だったのだと思う。趣味とか、言動とか、不用意に周囲に合わせることを是としない人だった。浮いていると言えばそれまでだけど、「自分で考えたこと」を猛烈な勢いで推し進める人だった。僕はそんな先輩と働いている時間が本当に面白くて、楽しかったのだ。
「(君は)異端児だけど、頑張ってね」
それが先輩が僕にくれた最後の言葉だった。
「できることだけやりますわ」と返した僕に、「それで充分だよ」と言ってくれた。
たぶん僕はもう、自分がやりたいと思っていたことを社内でやることを諦めていて、それなのにまだ働いている僕を先輩は不思議な気持ちで見ていたんじゃないかと思う。もしかしたら、先輩自身も同じだったのかもしれない。「自分の頭で考えたこと」は「みんなで決めたこと」の前では、あまり力を持たない。ほとんどの場合、無力に近い。
時間ばかりが経ってしまって、何一つ前進できていないことが、悲しくて、悔しくて、腹立たしくて、いつかおかしくなってしまうんじゃないかと思う。そういうとき、「みんなで決めたこと」に従っていれば、楽になれるのだ。悲しくもないし、悔しくもないし、腹立たしくもない。
でも、それって生きていると言えるのだろうか。
失敗しても悔しくないって、それはもう頭がおかしくなってしまっているんじゃないだろうか。
今我慢して、あと何年か、何十年か勤めたとき、「ああ、あの頃は若くてバカだったな。でも会社に残ってよかったな」と思うだろうか。そんな安心感に浸って「幸せだ」とつぶやく日が来るだろうか。
自分が今、ちゃんと生きていると胸を張って言えるのか。
そんなこととてもじゃないけど言えないんだ。
そういう話を、「うんうん。そうだよね。」と聞いてくれる先輩だった。いい先輩だった。
異端児でも構わない。
自分が行きたい場所に行くことの方が大事なことだって思うから。