かつて勇者だった者へ
大人になると、ズルや誤魔化しを覚えて、立ち向かうべき色々なことから、知らない内に逃げようとしてしまう。
でも、本当は誰もが、かつては立っていたはずだ。
ズルも誤魔化しも効かない、全力で体当たりしなければ超えられない壁の前に。何度もぶつかって、その度に弾き返されて、めちゃくちゃに傷ついて、痛くて、悔しくて、それでもその壁の向こうの世界へ行きたくて、諦めきれなくて、足を引きずりながら、それでも前に進もうとした。誰もが、勇者だったはずだ。
あれからどのくらいの月日が経ったのだろう。いろんな人がいた。いろんな事があった。心から楽しめることも、本当は嫌だけど飲み込んだことも。傷つくのがイヤだからと、剥き出しのままで勝負することを避け、回り道をし、いちいち安全を確認しながらしか前に進めなくなった。周りのみんなが、たくさんの人がそうやって生きている。心の中ではバカらしいと思いながら、分厚い鎧を手放すことはしない。間違っているのかもわからない。いや、むしろ正しいと思い込もうとしているだけなのかもしれない。そうやって、年老いていくことが幸せだと思い込みたいだけなのかもしれない。
かつて、誰よりも青く、誰よりも貧弱な勇者だった者よ。
あのとき、確かに何もできない愚か者だったかもしれない。毎日、暗闇の中を走り続ける思いだったかもしれない。だが少なくとも、傷つくことを恐れない勇気を持っていたのも確かだ。
あの勇気が、今また必要なんだ。
不格好でいい。結果が出せなくてもいい。文句や言い訳をたくさん垂れ流せばいい。そんなことはどうだっていい。
だからどうか、もう一度、立ち上がってくれ。