NavyTern’s blog

思考の試行。

小さな自分

何を探しているんだろう。何を夢見ているんだろう。確固とした、何かこう、今までよりどころとしていたものが、靄のように空気に溶けて消えてしまったような、そんな気分でいる。

 

目の前に起きることは、なんとかやりすごしてきたはずだ。上手ではないにしろ、問題がないラインで片づけてきた。信じられないようなことを平気で口走る人間にぶち当たっても、なんとか自分をコントロールしてきた。他人の人生などどうでもよい、自分だけが良ければそれでよいのだと嘯いて、自分で課題を設定し、よそ見をしないように、余計なノイズが入らないようにイヤホンを耳いっぱいに詰めた。

 

でも、自分は何も変えられていない。何一つ自分の力で変えられたものはないじゃないか。自分以外のものに左右されて、形ばかり整えようとして、そして、その事実からいつも目を背けている。

 

昔はまっすぐに走れたのだ。そうだ、スタートラインに立った時の高揚感。背中にジワリと感じる汗。トラックからは陽炎が立ち昇り、容赦ない日差しが頬を焼く。片膝をつく。手をつけばジュッと音がしそうに熱された地面。耳にまとわりつく湿った風。汗で服が脇腹に張り付く。腰を浮かし、合図を待つ。蝉の声が遠のいていく。自分の呼吸の音しか聞こえない。まだピストルはならない。両足に力が入る。上半身に血が集まってくる。今にも飛び出してしまいそうになる。腕とお腹の間を風が抜ける。そうだ、この瞬間だ。この瞬間がたまらなく気持ちがいい。ピストルが鳴る。腕の力を抜いて、脚にありったけの力を込める。筋肉がみるみる盛り上がるのがわかる。ごうっと強い風が顔を襲う。俺は負けない。こんな風には負けない。息はしない。さっきしっかり吸った。やるべきことは、ただ死ぬ気でまっすぐ走るだけだから。

 

なんでもない日常に、なんとか耐えている。耐え忍んでいる。計画が大事なことも、先立つものが必要なことも、目的や目標や保証や代替案や時間が要るんだってことも。全部わかってるんだ。そんなことはとっくの昔に知ったんだ。知っているだけで、何もできないまま、気を付けの姿勢で立ち尽くしたまま、何も変えられずにきたんだ。

 

臆病で、卑怯で、小さな自分がいて、ただ走るのが好きだったのに、それだけだったのに、どうしてこうなってしまったんだろう。