NavyTern’s blog

思考の試行。

母を考える

私の母は厳しい人だ。それはちょっと複雑な家庭環境のせいもあるかもしれないけれど、人間の基本的なところでそういう気質なんだと思う。

具体的にどういう場面で厳しいのかを挙げるとなると難しい。メールは基本敬語だ。特にお金の話になると、取引先を相手にしたかのようなメールをよこしてくる。そのとき母は、いわゆる母ではない。

幼いころから「強く」なるように育てられた。
ぐずってしゃがみこんで、歩くのを拒否した時も「じゃあ置いていくから」と言い残して本当に置いて行かれた。
つい最近でも、就職が決まらなかった私に「なんでもいいからさっさと決めてきなさいよ」と怒鳴るわ、一人暮らしなのに「連絡の一つもよこさないで」とよくわからないメールが来たりと、何かと親子は大変である。

愚痴を書きたい訳ではない。この年になって、客観的に母を一人の人間として見た時、「ああ、この人は母親に向いてないんだな」と気付いた。母親どころか奥さんも向いてない。家庭に収まるタイプではないのだ。

小学生の頃、食事を一人で済ますのは当たり前であった。
当時父は普通に勤めていたし、母は会社を立ち上げるために奔走していた。学校から帰って来ても誰もいないし、一人で寝るようになったのも4歳かそこらだったと思う。それでも友達を連れて来たときはお菓子のくじびきを作ってくれたり、レストランごっこをしてくれたり、それなりに構ってはくれたけど。

誰もいない食卓ほど寂しいものはない。おいしくてもおいしいと言えない。暗い家、冷めた料理、遠くで電車が走る音だけが聞える。その内それが当たり前になってしまうと、もう戻れなくなるんだと思う。

一人でいることは当たり前なんだ。

そう考え出すと、なんでも自分でやらなくてはいけなくなる。それを突き詰めていくとぶつかる壁が、お金なのだ。
「あんた、誰のおかげでここまで大きくなったと思ってるの」「誰があんたのお金出してると思ってるの」「子供なんだから生意気言うんじゃない」
これを出されて口で勝てる子供はいない。いつも卑怯だと思った。議論から逃げるなと思った。でも、その内それもどうでもよくなるのだ。

母は働いている。忙しかった時期はほとんど家にいる時間はなかった。いてもずっと仕事をしていたし、飯と金というインフラさえ整えておけばOKっしょ!という感じだった。自分で稼いだお金で自分が何しようと勝手でしょという感じ。
それは大いに違うと思った。蔭で働く父の姿を見ていたからだ。家の権力のほとんどを母が握る中で、洗濯や私の食事の準備は父がやっていた。風呂掃除とゴミ捨ては私の仕事。家事をほとんどしなかった母は、父と私に母親をやらせてもらっていたと言ってもいいんじゃないかと思う。あくまで子供の視点だが。本人に言うと「すごいやったよ」と反発するけど、やりゃあいいってもんじゃないって話で。

育ててもらったんだから、恩を返すのは当たり前、という風に考えているんじゃないかと思う。ギブ&テイクがはっきりしているというか。しかし、実際に母は自分の親にギブしたのかを考えると微妙な気がする。育てたんだから恩を返せ、というのは押し売りの構造だ。本当に考えるべき問題は、育ててもらっても恩を感じられない家庭であるという点、「恩返ししたい!」と思えないようになってしまった点にある。

12歳で宣言したことが3つある。
1、早く家を出て一人暮らしがしたい。
2、結婚はしない。
3、親の介護はしない。

幼いながらにギブ&テイクを守ろうとしていたのか、素直に「強く」なろうと思っていたのか。たぶん色んな原因が合わさってこうなったんだろう。母が死んだとき、自分は泣けるのか心配である。

自己実現したいのならすればいい。自分の恵まれた環境を棚に上げて、人を非難することも目をつぶろう。最後の壁、お金の呪縛さえなくなるまでは我慢だ。10年近くそれだけを考えてきた。我ながら寒い家庭だ。

こういうことを直接言ったところで何かを変えようとする人ではない。だから言わないし、正直面倒だから受け流すだけだ。自立するということが、自分で考え自分で進むということを意味するのなら、私は必要がなければ振り返らないという選択肢を選ぶ。人に「強く」なれと教えておいて、自分だけ助けてもらおうとしても、それはフェアではない。親と雖も通すべき筋があるだろう。


と、こんなことを考えてしまう私は、やはり誰かと一緒にいるのが難しいのだと思う。もちろん、そういうのが自然にできる人が現れたなら、こんなに幸せなことはないのだろうけど。
やっぱり、一人でいることは当たり前だ、なんてことを子供が考えちゃいけないよ。そんなのはダメだ。そんなことしたって強くなったことにはならない。「強さ」が一体何であるかを教えなかった母よ、あなたはやり方を間違えたんだと思う。でもそんなことを子供に言われたら、立場ないだろ。だから子供は黙るんだよ。

親の心子知らず、とはよく言う。確かにわからんよ。同じように子の心親知らず、なんだけどさ。
自分で考えて、俺は明日も生きるよ。