NavyTern’s blog

思考の試行。

推薦本10選

いつも「オススメ何?」って突然聞かれて、アワアワして答えられないので、ここにまとめておきます。順番はランキングではなく、思いついた順です。解説は、我ながらうまく書けたと思います。

1、ブルック・ニューマン 「Little Tern」 集英社

・ぱっと見は絵本のような作品。実際、水彩画がとてもキレイでそれだけでも楽しい。本文の内容は飛べなくなった鳥(「Little Tern」はコアジサシのこと)が再び空を目指すというもの。友達は蟹。単に小説として読もうと思えば読めるし、哲学として読めなくもない。続編の「Lost Tern」はいまいちだったので、この一作が光る。

2、川上未映子 「乳と卵」 文藝春秋

・至る所で僕が言いふらしているのが川上未映子。この作品は第138回芥川賞を受賞した作品。内容は豊胸手術をするために東京へ上京してくる姉・巻子とその娘・緑子、そして主人公の「あたし」の三日間が描かれる。前作の「私率イン歯ー、または世界」に比べると格段に読みやすくなったが、スピード感に欠ける。個人的には「私率イン歯ー、または世界」も読むことを薦める。「なんじゃこりゃあ」と思うはず。なんか新しいものが欲しい人へ。

3、尾崎翠 「尾崎翠 (ちくま日本文学4)」 筑摩書房

・上に挙げた川上未映子を始め、現在活躍中の女流作家が「若き日に読んでいた作家」としてよく名前が挙がるのがこの人。作家自身の来歴が謎に包まれているのも興味を引かれるが、作品そのものは静かな世界が描写される。ここに挙げたのは短編がいくつか収録されている。読後感は「いい小説読んだな」という感じ。一昔前に書かれた作品なので難しい漢字がたくさん出てくる。漢字好きとしては、そこでも楽しめた。ちゃんとした文学作品を読んでみたい人へ。

4、辻仁成 「白仏」 文藝春秋

・「おもしろくない」と評されがちな辻仁成だが、この作品は半分が事実を基に書かれている。第116回芥川賞受賞作品。内容は大正昭和を生きた男が、ある島で戦没者たちの骨を集めて「白仏」を作ろうとするお話。小説特有の細部がフワフワした感じが少なく、「しっかりした話だったなぁ」という読後感を覚えた。彼の作品にはキザな男がたくさん登場してくるが、その姿は村上春樹の初期3作に似ているなぁと思ったりなかったり。がっつり読書したい人へ。

5、星野道夫 「旅をする木」 文藝春秋

・これは小説ではなくエッセイ。アラスカにおける写真家としては彼ほど有名な人はいないだろう。内容は、アラスカの情景描写が彼独特のやさしい語り口調で綴られている。マメ知識として、彼が熊に襲われて亡くなった話も有名だが、あれは実はアラスカではなくカムチャッカ半島(ロシア)での事件であった。詳しくはウィキペディアへ。「ちょっと免疫力が落ちてきたかも」という人にはちょうどいい本だと思う。

6、吉野源三郎 「君たちはどう生きるか」 岩波書店

・有名な哲学入門書である。事実、哲学者であった作者が「どうしたらわかりやすく哲学をしてもらえるか」を考慮して、小説の形で書かれたらしい。主人公のコぺル君が何気ない日常で気付く哲学的な問いや、おじさんとのやりとりはとてもシンプル。であるが故にいつになっても輝きを失わない。単純にコぺル君がかわいい。数年ごとにスパンをおいて読むと、発見が多い本でもある。「なんか最近、ちょっと調子が悪い」という人へ。

7、リリー・フランキー 「東京タワー」 新潮社

・すべからく「家族もの」に弱い僕は号泣してしまった一作。作者の自伝的小説であり、蔭ながら子を支え続ける母の姿と、どん底まで落ちつつどこかほのぼのと生きる「僕」が描かれる。樹木希林オダギリジョー主演で映画も作られている。「樹木希林って化け物だ」と確信するほど演技がすさまじい。同じ作家でもう一つ薦めるなら「ボロボロになった人へ」(幻冬舎)。短編集。有名でもないし、そんなに劇的に面白いわけでもないけど、「ふーん」ってテンションで読んでみてほしい。

8、中島敦 「李陵・山月記」 新潮社

・教科書等にも採用されているので読んだことがある人も多いかもしれない。中国古典風に数作の短編が描かれる。古代中国の役職など予備知識があればより楽しめると思うが、難しいと思った場合は「山月記」単体でも十分だと思う。「山月記」は試験に落ちた男が虎になっちゃう話。同じ本の別な話で「100メートル先の柳の葉を矢で射抜く男」が出てきて笑った。そんなん、もう、無茶。全体的に超人の話が多いが、テンポは非常に良い。詩が好きな人は、何か感じるものがあるかもしれない。

9、石井光太 「絶対貧困」 光文社

・作家の実体験に基づくルポルタージュ。かなり不快に感じる部分も多いので、新興国の現状やボランティア、開発などに興味がある人以外はあまり読まない方がいいかもしれない。食事のときは特に読まない方がいい。いわゆるスラム街などに住む人々を取材したものだが、彼の取材は「一緒に生活する」という手法を取る。そのため細部まで描写されており、ボランティアが綺麗事で済まされないと実感する。日本では考えられない世界の現実を知りたい人へ。

10、マーク・トウェイン 「トムソーヤの冒険」 新潮社

・不朽の名作。ミシシッピー川流域で繰り広げられる子供VS大人の物語は痛快。ここでは続編の「ハックルベリィフィンの冒険」(同社)も薦めておく。トムソーヤではエンタメ性に主軸が置かれていた一方で、ハックルベリィ(トムソーヤの友達の名前)では、黒人差別に対する懐疑が扱われる。作品中ではトムソーヤ=悪童として描かれるので、一層ハックルベリィの素直さや純朴さが際立っている。「冒険すること」に言い訳をしてしまうようになってしまった人へ。